A07
ジャイシング・ナゲシュワラン
Jaisingh Nageswaran
THE LODGE
年に一度、ヴィリュップラムという静かで小さな町のロッジやホテルが大盛況になる時期がある。トランスジェンダーや異性装者、恋人たち、それに好奇心旺盛な見物人という何千人もの人々がこの場所に集まり、数日間だけ自由な人生を謳歌するのだ。自らを縛っていたものから解き放たれ、自分の真のアイデンティティを表現する。彼らは鏡の前で長い時間を過ごす。変身した自分の新しい姿を眺めることで、大きな喜びを得るのだ。そうした些細な出来事や時間が、彼らにとってはとても特別で、大きな意味を持つ。しかし、私自身も最初はトランスジェンダーの人々に素直に連帯し共感することはできなかった。
以前は、トランスジェンダーの人々を誤解し、同じコミュニティの中で暮らす彼らの存在を居心地悪いものとして捉えていたことを覚えている。しかし、いくつかの疑問が私を困惑させてもいた。彼らは何者なのか?なぜ私は彼らを恐れ、遠ざけようとするのか?それと同時に、好奇心もあった。子供の頃から奇妙に感じていた二面性が私を混乱させた。彼らを知るためには、彼らに近付き、その思いや感情を理解しなければならない。最初はためらいがあったものの、やがてロッジで彼らと知り合うことができた。そして私は、自分の中に彼らと通じるものがあることに気付いた。なぜなら、私自身が社会の周縁に追いやられた存在だからだ。カースト制度が今なお社会に根付く、南インドのタミル・ナードゥ州内陸部出身のダリット、すなわち不可触民として。
ジャイシング・ナゲシュワランは、タミル・ナードゥ州バディパッティ・マドゥライ出身の独学で写真を習得した写真家。労働者階級の両親のもと、失読症で生まれ、自宅で祖母から教育を受けた。彼の作品は、社会的弱者のコミュニティや農村地帯の人々の生活の記録が中心となっている。アーティスト・コレクティブ「13 Jara」のメンバーとして活動する傍ら、映画のスチルカメラマンとしての仕事も行っている。2021年にはマグナム財団のPhotography and Social Justice Fellowに選ばれた。最近では、《I feel like a fish》と題した作品が第13回アフリカ写真ビエンナーレで展示された。
京都芸術センター
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