112
柳原美咲
Misaki Yanagihara
ゆ場
子どものころ、よく家族で通った温泉の露天風呂。出会ったばかりの人と友だちのようにおしゃべりをしている。それを少し不思議に思いながら、幼稚園児だった私もつられて愛想よくあいさつをした。心地よくて穏やかな時間だった。
東京で写真の仕事を始めて10年。目まぐるしい日々の中、時々そこから抜け出して一人旅をするのが息抜きになった。そんな私に、温泉地への旅を勧めてくれた人がいた。 小さなころから身近にあった温泉。行かない理由は見つからなかった。温泉街、共同浴場、湯治場、廃泉、山奥の野湯......。 行けば行くほど温泉地の奥深さを知り日本中あちこちの温泉にカメラを持って出かけることになった。
2020年、温泉地にも疫病がやってきた。街から人が消え、浴場から笑い声がなくなった。
人々は目の前の人を疑い、交わるのを拒んだ。なくなっていく浴場や、分断される世界を目にするのは想像以上に心苦しいものだった。 「いらっしゃい、こんな遠くまでありがとうね」。当たり前に聞いていたその言葉に涙が出そうになる。一人で入るには大きすぎる湯船に心ゆくまで浸かった。ロビーに戻るとご主人たちが談笑している。
「アルコールじゃなくてこの温泉をスプレーすればいいんだよ!」
「手もすべすべになるし、一石二鳥だね。」
真剣に話す姿に、くすっとしてしまう。そうだ、いつだって温泉地=湯場には、 このユーモアと心穏やかになれる時間があったじゃないか。
バイカルカフェ&バル 京都駅店
〒600-8234 京都府京都市下京区西洞院通塩小路下ル南不動堂町802番地 京湯元ハトヤ瑞鳳閣1F
Open: 4.18 Sat.–5.17 Sun.
Open Everyday
08:00 - 21:00
入場料 | Entrance charge : 1オーダー | One order required
キュレーター | Curator: 野口奈央(ギャラリー冬青) | Nao Noguchi(Gallery Tosei)