S06

渋谷ゆり
Yuri Shibuya
Idyllic Moment
東京都生まれの写真家・渋谷ゆりは、武蔵野美術大学在学中からスケートボードをテーマに写真を撮り始めました。世界各国への旅を経て移り住んだニューヨークでは、スケーターたちとの協働によって多くの作品を残しています。およそ10年間、被写体と誠実に向き合いながら、コミュニティの一員にならなければ撮ることのできない写真があることを学んでいきます。そして、観光で訪れたヨセミテ国立公園で、偶然にもスケーターと同じように自由を謳歌するクライマーたちと出会い、感銘を受けます。彼らが長期滞在するキャンプサイトを主な舞台とする写真集『Camp4,Yosemite』を発表したのが2014年のこと。
カリフォルニア州バークレーに居を移し、毎年数ヶ月間ヨセミテ国立公園に通う生活を続けたおよそ10年の間に、渋谷の視線は少しずつ変化していきます。ヨセミテの象徴的な風景を訪問者として撮るのではなく、ニューヨークでの実践と同じように、コミュニティの内側からしか見えないものを記録していきます。長く岩に取り付き続けた者だけが持つ、純粋な眼差し。友人となった彼らの、まるで風景と一体化するようなクライミングスタイル。自身もクライミングを始めたことによって見えてきた花崗岩の表情。渋谷の写真に宿る親密さは、長い時間をかけて溶け込むようにして、ようやく湧き出てくるもの。
渋谷は、今展覧会のタイトルを「Idyllic Moment」と付けました。直訳すれば、「長閑な瞬間」でしょうか。本来は相反する意味を持つ言葉の並びは、「親密さ」、「ピース」、「永続性」と言った、彼女の写真から受ける印象を見事に捕捉しています。同時に、のんびりと穏やかに過ぎる時間が、実は稀有な、刹那的なものであることを示しています。渋谷はこのタイトルに「すべてを忘れて、今、ここにいる感覚を込めた」と言います。その言葉は、かつて存在した瞬間を懐古する、という写真の本質的な役割を想起させます。同時代を写しながらも不思議と引き出されるノスタルジーにも似た感慨は、美しいモノクロームの階調でなければ表現し得ないものなのです。
ザ・ノースフェイス・スタンダード 京都
京都府京都市中京区坂井町 450
Open: 4.12 Sat.–5.11 Sun.
12:00–19:00(土日は11:00–)
Closed: 4.16
12:00 - 19:00
入場無料
主催|Organizer: 株式会社ゴールドウイン|GOLDWIN INC.