伊藤妹

Mai Ito

現代社会は視覚的評価に支配され、物理的な存在が優先されがちである。しかし、香りや記憶、感情といった無形のものには、目に見えないながらも深い力が宿っているのではないだろうか。香りは目を閉じても感じられる美であり、過去の瞬間や感情を鮮やかに蘇らせる力を持つ。恋人との思い出や家族の香り、旅の記憶など、香りを通じて鮮明に感じ取ることができるのは、個々の記憶の中に深く根付いた体験である。 写真は一瞬を切り取る力を持つが、この作品ではその瞬間に潜む目に見えない感覚的な存在に迫る。作家伊藤妹は香水を媒介に、自らの記憶や感情と重ね合わせながら、無形のものの存在に触れ、無形の美が持つ癒しや記憶の力、視覚を超えた感覚的存在を可視化する実験的な試みを行っている。 香りの持つ深い力と、その無形の美が映し出す感覚的な世界を探求する展覧会である。