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岩橋優花
Iwahashi Yuka
光の根
このシリーズは、二つの作品の制作をきっかけに生まれた。
一つは数年前のパンデミックがきっかけとなって始まったポートレイトシリーズである。さまざまな規制があったなかで、部屋の中に設置した不織布にプロジェクターを使って、過去に撮影した自分にとって身近な人たちの像を投影した。自分側に投影した像は、不織布を透過してどこまでも続いた。空間いっぱいに広がる像を見て、一体どこまでをイメージと呼ぶのだろうと思いながら、一部を掬い出すように、像を再びモノクロフィルムで撮影し、暗室でフォトグラムを用いたりしながら印画紙の上に焼き付けた。このような複雑な過程を経て、他者に向ける眼差しと自身の中にある記憶の揺らぎの線を辿った。
もう一つは、家族やその土地を撮影しているシリーズである。
父が目の手術をしたあとしばらくの間、リハビリのため遠くを眺めるのが日課だった。家の勝手口を開けて外の方に目をやる父の横顔を見ていたときに、ふと、父が眼差す先がどこまでも続いていくのだと感じた。
ちょうど父の視線の先にあるのは、そこに住む私たちにとって身近な庭であり、家族の暮らしの営みや土の匂い、数年前に亡くなった祖母の記憶をより想起させる場所だった。偶然見た先に庭があっただけなのかもしれないけれど、父が見ていた庭は、物理的な距離としての「遠く」ではなく、私たちそれぞれがもっている記憶やイメージのもっと深いところにあるのだと思う。もしそうだとしたら、その庭に向かう父の視線は、根が地面の深いところまで這い進んでいくことに似ている。そのうち祖父や祖母、母がそこで植えた木々のように、父の眼差しはその土地に深く根を下ろすだろう。
根がゆく先は明るくなくても大丈夫で、徐々に感覚が研ぎ澄まされていく。
根を下ろすとき、目を閉じたときに見えるものをここに手繰る。
PURPLE
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