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逢坂憲吾
Kengo Osaka
枯花
「生を受けた時から死に向かう、抗えない時間の流れを翻訳している」。 写真家・逢坂憲吾の「枯花」シリーズが捉える対象は、みずみずしく咲き乱れる花ではなく、色褪せ、しおれ、ぐったりとした、終焉を目前にしている花々である。しかし、どうだろう、そこに写し出されているのは「死」という点ではなく「生」の時間だ。鮮明に写された葉脈や毛状突起、花びらに浮かぶシミ。逢坂の写真は、もはや水や栄養を巡らせる力はなく、あざやかな色は失われているにもかかわらず、一輪の花が浴びてきた陽の光、身を漂わせた空気や風、土の温かさ、吸い込んだ水……花が生きてきた時間と情景を浮かび上がらせる力がある。「枯花」というタイトルに抗うように、最期まで咲こうとする花の生気が立ちあがっている。その姿はわれわれ人間の生命と呼応する。 文・本屋しゃん 中村翔子
ONE AND ONLY
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