S4
飯田 夏生実
Naomi Iida
in the picture: side-B
ある日突然、それは訪れる。
たとえば、子育ての終わり、親の介護、身体の衰え、病気、別れ、老い。
それが現実に自らの身に起こったとき、私の体と心は思いがけない反応を示した。いきなり、何が起こったのかを理解する間もなく、暗く重い水の中に押し込められた感覚に襲われたのだ。私に起こったのは、子育てを終えた後に陥る「空の巣症候群」だった。
身動きできない時間。すべてが素知らぬ顔で通り過ぎ、自分が何者かさえもわからなくなったとき、私は携帯電話で自分の影や写る姿を撮り始めた。ひとつひとつの場所と時間を押しピンで留めておくかのように。そして何度も見返した。それらの写真が私の存在を証明している、か細くとも世界と繋がっている、と思えたのだった。
やがて、ゆっくりと時間をかけて、それらの写真は私を明るい空の下へと連れ出してくれた。新鮮な空気が胸を満たす。世界に豊かな色彩が戻る。
それでも重く暗い水は私の中に残って血肉の一部となり、深いしわを刻み、人生の輪郭をなしていくだろう。そのすべてを愛おしめるようにと祈りたい。
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