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千々岩 孝道
Kodo Chijiiwa
瞬刻のタブロー
まだ陽が昇る前の夜の途中の時間、静かな海を目の前にすると、波の音や磯の香りで海の存在は感じるが、まだ光が行きわたっていないその黑い海は、ゆらゆらとたゆたう定まらない模様の様に見えた。やがて雲に隠れた月から溢れる静かな優しい光が落ち、闇に慣れ始めた視覚が、さっきまでの黑い模様に濃淡が足される事で、少しずつ形状が現れ認識されていく。 認識と認知とが混じり始め、それは、時を要しながら、初めての町に適応していく自身の 存在へと繋がっていった。そんな情景を、「時間を伴う身体的アプローチによる物事の認知と認識の視覚化」をもとに制作を試みた。それはまるでカメラが大きな絵筆となり、瞬刻のタブローを描くかの様だった。 追記 ウイルスもヒトも生物として「適応」できたものだけが生き残ってきた生存競争の歴史、 それは真っ暗な海の底から頭上に見える陽の光に向かって、突き進んだあの魚の限界の先にあった想いが創造した未来の歴史かもしれない。
Len Kyoto Kawaramachi
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