酒井一貴

Kazutaka Sakai

You are not I.　そう話す女性の声を、34年前、17歳の私が耳にして以来、この言葉は私の記憶の片隅に残り続けた。それはサラ・ドライヴァーの同名の映画の冒頭の音声だ。映画の本編は未だ観ていないし、この言葉がどのような状況から生まれたのかは知らないが、この言葉は私にいくらかの勇気を与えてくれる。あなたは私ではない。それはつまりあなたは私と同一の存在ではないということ。その事実はあらゆる表現に価値を与え、そして写真家には写真的視野を与える根元となる。私にとって写真は永遠なる客観であり、けっして交わることのない関係から生まれる静けさの奥には、暴力的な野生が眠っている。その事実は不思議に面白い。私は自分の写真に多くを求めないが、その奥にある何かを眺めることで、人というものの存在を少しでも浮き彫りにしたいと望んでいる。