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岩波 友紀
Yuki Iwanami
Blue Persimmons
この写真プロジェクトは、見えない放射能によって分断された福島の人と土地、人と人との関係を表し、福島の人の 心に刻まれた見えない被害を捉えたものである。2011年、福島第一原発が放射性物質を撒き散らした。福島では 避難区域で境界線が引かれることで土地が分断され、汚染された土地は人とも分断された。そして物理的にだけで なく、精神的な分断も起こる。経験のない放射能の影響に対して右往左往し、立場の違いや考え方の違いで人間関 係が断絶する。人の心には、常に不安がつきまとい続ける。私は福島に移り住み、心の中の不安と、もはや修復で きない壊された関係こそが、見えない放射能による見えない被害だと気づいた。ある人はなすすべなく見つめ、あ る人は覚悟によって進み続ける。しかしここでは誰も、何が正しいのかわからない。わからなくても、それでもただ 生きていくという現実だけがある。世界に逃げ場はなく、この時間と空間から逃れることなどできないから。
経歴
⻑野県生まれ。新聞社の写真部を経てフリーのドキュメンタリー写真家。現在福島県に在住し、東日本大震災と福島第一原発事故後をテー マに作品制作を続けている。2018年には福島県富岡町の桜並木をテーマにした写真集「NIGHT FOREST 夜の森」を発表。行方不明の わが子を捜す父親たちのドキュメンタリーはフォーカスフォトフェスティバルで展示され、写真集「One last hug 命を捜す」(青幻舎)を 2020年に刊行した。東北の被災地における民俗芸能をテーマにした作品は第4回入江泰吉記念写真賞を受賞し、写真集「紡ぎ音」を出版。 原発事故後の福島を表した「Blue Persimmons」はCritical Mass Top 50、Tokyo International Photography Competition、ユー ジン・スミス賞など受賞し、シンガポール国際写真祭、テグフォトビエンナーレなどで展示された。
くろちく万蔵ビル