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高杉 記子
Noriko Takasugi
むすひ
新しい400キロメートルの長さのコンクリートの護岸が海岸に建設され、海の景色を遮っている。 337平方キロメートルの土地は放棄され、住むことができない、放射性汚染された土壌を完全に処分するには30年かかる。 東日本大震災から10年が過ぎ、次の10年を迎えようとしている。震災により16,000人が亡くなり、以降も3,700人以上の災害関連死が発生している。 災害は、私たちがどれほど傲慢に自然を扱い、原子力を含む自然の脅威に鈍感であったかを再考させた。同時に、私たち一人一人が立ち止まり、生き方、なぜ生きるのか、自分のアイデンティティについて考えることにもなった。このプロジェクトは、福島の海沿いの野馬追という土地の安寧を祈る祭礼が根付く地域に焦点を当てて、震災以降、私たちがどのように生きてきたかを見てきた。 野馬追は、福島の海沿いの地域に約1000年続く祭礼だ。あの震災と原発事故の直後、なぜ、人々はたくさんの命と大切なものを失った中、避難先から集まり、馬に乗って歩み、神事を行ったのだろうか。 歴史を遡ってみて、天保5年に疫病が蔓延していた年、明治維新で国内が混乱していた年にも、規模を縮小して野馬追の神事を執り行っていたことを知った。史上最小規模で神事のみを行った、昨年のコロナ禍の野馬追も記録した。人々は土地の平和を祈るための儀式を続けてきた。 「むすひ」は、日本神話の神であり、命の連続性を表している。 「むすび」と呼ばれる地元の神々は、空間と時間を超えた、人と土地、人同士のつながりを意味する。 このプロジェクトは、復興によって景観が劇的に変化している福島と、人々が生き残るための強いアイデンティティである野馬追を通して、アイデンティティと人間と土地の歴史的、継続的な関係をみようとしている。
経歴
アイデンティティ、土地などをテーマに、ポートレートを中心とした作品を制作。東日本大震災後、福島に通い続け、地元の人々や県内の博物館と交流しながら作品創りを続けている。「Fukushima Samurai」をPhotoquai ビエンナーレ2015(国立ケ・ブランリー美術館/パリ)、Asian Woman Photographers Exhibition“ insight”
2018の(Xie Zilong Photography Museum /中国・⻑沙)で招待作家として展示するなど、これまでの作品は国内外9カ国で展示。 New York Times, Harper’s BAZAARなど掲載多数。
くろちく万蔵ビル